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スタートアップ企業(ベンチャー企業)のバリュエーション

スタートアップ企業(ベンチャー企業)への投資においては、サービスや製品の将来性、経営者の資質、チーム力等の評価が重要なのはもちろんですが、法人がスタートアップ投資に営利として取り組む以上は定量評価も重要です。

本稿では、事業会社がスタートアップ企業(ベンチャー企業)を評価する際の手法について説明します。

主な対象者

  • スタートアップ企業(ベンチャー企業)の買収を行うM&A担当者

スタートアップ企業(ベンチャー企業)のバリュエーションにおける課題

事業基盤が未成熟なスタートアップ企業への投資は、成熟企業への投資に比べて定量的な評価が相対的に難しいといえます。
サービスや製品が未完成の段階では、売上が見込み通りに発生すること自体に不確実性が高く、すぐに儲けが出るケースは極めて限定的です。
サービスや製品の拡大期にあっても投資先行で赤字が続くこともあります。

上場会社へ投資する際に利用する、利益をベースとしたマルチプル法が利用できなかったり、上場会社のリスクやリターンを参照する評価手法では評価額が過大となったりする可能性があります。

従って、何らかの方法で一般的なバリュエーション手法を修正する必要があります。

スタートアップ企業(ベンチャー企業)のバリュエーション手法

1.マルチプル法

継続して利益の出る企業の投資(M&A)ではEV/EBITDA倍率が一般に利用されますが、この方法はEBITDAが赤字の企業には適用できません。

スタートアップ企業は、EBITDAがマイナスとなっていることも珍しくありません。

そのため、マルチプル法を利用する場合、EV/EBITDA倍率よりもPSR(ここでは、その派生である会員数や顧客数を利用する方法も含みます)の方が一般的です。EBITDAが赤字の企業でも利用できるからです。

PSRは、対象会社が将来成長した際の利益率が類似企業と同程度と仮定する評価手法です。
キャッシュ・フロー(CF)の源泉である利益を評価に利用しないため、CFを基礎に理論構成されているコーポレートファイナンスとは厳密には整合しません。しかしながら、コスト構造がシンプルな業種、競争力の源泉が売上高や売上数量になる業種においては一定の目安になるといえます。

2.DCF法

事業計画に基づき将来キャッシュフローを算定し、一定の割引率でこれを割引計算するDCF法はスタートアップ企業の評価でも頻繁に利用されます。

ただし、上場類似企業のデータに基づく割引率を利用すると評価額が過大になることが多いため、割引率は慎重に決定する必要があります。

スタートアップ企業のDCF法では、割引率にVC(ベンチャーキャピタル)が要求する投資リターンを利用することが多いです。
客観性を持たせるために一定の権威者の論文を参考にします。ハーバードビジネススクールのWilliam Sahlman氏や、ニューヨーク大学のAswath Damodaran氏が有名どころです。

3.VC IRR-NPV(正味現在価値)法※

※正式名称のある手法ではないため筆者が勝手に命名しています。ご了承ください。

通常、VCやPEは、EXIT時の投資回収見込額を現在価値に割り引いて投資額を決定するわけではありません。EXIT時の投資額の倍数(投資回収額/投資額。「マネーマルチプル」とか「Cash on Cash」と呼ばれます。)や投資期間のIRRが、ファンドの目標リターンを満たすように投資額を決定します。

IPOを目指しているスタートアップ企業への投資においては、この方法を応用したNPV法でバリュエーションすることが可能です。

金融投資家の株主の目線で考えた場合、スタートアップ企業への投資が成功した際のキャッシュ・イン・フローはIPO(上場後の売却含む)による投資回収額といえます。

そうすると、IPOによる投資回収額を一定のハードルレート(目標リターン=割引率)で割り引いて算定されるNPVは、ハードルレートを達成するために投資時点で支出可能な最大金額ということができます。具体的には以下の通りです。

この方法は、株主の目線で株主に直接帰属するCFだけを合計します。CFを割り引く点ではDCF法と類似しますが、DCF法は投資対象企業の目線で事業から生み出される全てのCFを合計(株主だけでなく債権者に帰属するCFも合計)する点で異なります

一般に、この方法は安定した利益の出る会社のバリュエーションレポートの作成では用いられません。 しかしながら、スタートアップ企業のDCF法同様、VCが要求する投資リターンをハードルレートと見做して株主に帰属するCFのNPVを算定することで、理論的には投資ファンドと近い方法での評価が可能となります。

株式会社LeverNでは、スタートアップ(ベンチャー)企業のバリュエーションや資金調達支援も行っています。お気軽にご相談ください。