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マルチプル法

前回は、株価評価技法(バリュエーション)の基礎についてご説明しました。今回は、マルチプル法について解説します。

主な対象者

  • 事業会社の経営企画・財務部門に所属しているがこれらの知識について不安のある方
  • 弁護士、税理士、会計士等でこれらの分野が専門外の方
  • いまさら聞けない方

マルチプル法(倍率法)とは

マルチプル法は、株式価値や企業価値を、利益や財務・経営指標の何倍にあたるか、という観点から算定する評価技法です。
M&Aや投資実務で多用される評価技法で、”マルチプル”、”倍率法”、”類似会社比較法”等、呼び名は様々です。投資銀行やPEファンドで、上司に「Comps(コンプス)を取ってくれ」と頼まれたら、上場類似企業のマルチプル一覧を出す必要があります。何を出していいか分かりません、ではクビになってしまうかもしれません(苦笑)。

さて、最もポピュラーなマルチプル法といえば、企業価値/EBITDA倍率(EV/EBITDA倍率)です。M&Aの実務において、単に「その会社、何倍?」と聞かれたら、企業価値/EBITDA倍率を答えておけば間違いないでしょう。
株式上場(IPO)の際に利用される一般的な評価技法はPER(株価収益率)です。上場株投資では、PBR(株価純資産倍率)も利用されます。
マルチプル法は、2つの指標の相関を倍率で表せればいいだけなので、会員数マルチプル(会員数の何倍か)や台数マルチプルなども可能です。

マルチプル法のイメージ:企業価値 or 株式価値利益×上場類似企業の倍率

マルチプル法は分かりやすい

マルチプル法の特徴は、なんといっても直感的に分かりやすい、これに尽きます!
SPEEDA、Capital IQ、Bloomberg等のリサーチツールを使えば上場類似企業の倍率は簡単に取れますし、時間の経過による更新も容易に行えます。
勿論、無料で使えるyahooファイナンスと各社のHPに掲載される決算短信や有価証券報告書等からでも手計算できます。
マルチプル法は、検討初期段階で用いられるだけでなく、実際のM&Aや投融資の実施局面でも、単独、あるいは、他の評価技法と組み合わせて利用されます。
DCF法に比べて恣意性を排除できる、即ち、事業計画の将来数値の妥当性を検証せずとも評価できる半面、事業の将来性を価値に反映できないデメリットもあります。

最後に、2つの代表的なマルチプル法の例を示して終わります。

代表的なマルチプル法

①EV(企業価値)/EBITDA倍率=企業価値÷EBITDA

EV(企業価値)がEBITDA(日本語読みは、イービットディーエー、イービットダー、イービッダー、エビダー等、もはや伝わればどんな呼び方でもOKです)の何倍に相当するかを示す指標です。
EBITDAは、Earnings Before Interest, Tax, Depreciation, and Amortizationの略で、税金及び利息支払前の疑似的な営業CFとして用いられます。
日本の会計基準においては、EBITDA=営業利益+償却費(減価償却費+のれん償却費)で算定可能です。

仮に、上場類似企業(上場している同じ業界の会社)の企業価値÷EBITDA中央値が7倍、対象会社のEBITDAが10億円、純有利子負債が30億円なら、対象会社の株式価値は、
EBITDA(10億円)×企業価値/EBITDA倍率(7倍)-純有利子負債(30億円)
=企業価値70億円-純有利子負債30億円
=株式価値40億円 となります。

②PER=1株単価(株価)÷1株当たり純利益=時価総額÷当期純利益

株価が1株当たり純利益の何倍に相当するかを示す指標です。
新株予約権等が無い、あるいは少ない場合には、当期純利益と上場類似企業のPERさえあれば、株式上場時の時価総額の簡便計算が可能です。
例えば、上場類似企業のPERが20倍、当社の当期純利益が10億円なら、株式上場時の推定時価総額は、
当期純利益10億円×PER20倍
=時価総額200億円 となります(今回はIPOディスカウントは考慮していません)。

株式会社LeverNでは、M&Aや投資に際してのバリュエーションのみならず、株式上場(IPO)支援の一環として、上場時の値付けや資本政策のご支援もしております。
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