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M&Aと株式上場(IPO)のマルチプル法の違い

前回に続いて、マルチプル法の解説です。

主な対象者

  • 株式上場(IPO)を目指す企業の経営企画・財務部門に所属している方
  • 中規模以上のオーナー企業のオーナー経営者
  • いまさら聞けない、弁護士・税理士・公認会計士

M&Aと株式上場(IPO)の値付け方法が相違する理由

前回、M&Aの実務で一般に用いられるマルチプル法は企業価値/EBITDA倍率で、株式上場(IPO)で用いられるマルチプル法はPERだと説明しました。ここでは、なぜ、このような違いが出るのかご説明したいと思います。

利用されるマルチプル法が状況によって異なる背景には、目的とする取引が、(純)有利子負債も含めた経営全体の面倒を見る行為かそうでないかがあります。
M&Aは、一般に、買手企業が対象会社の経営権を取得し、(純)有利子負債も含めた経営全体の面倒を見る行為です。買手企業には有利子負債の返済義務もついてくるので、単に、株式価値が低いからといって莫大な負債を抱えた企業を買収しては、後で痛い目に合うかもしれません。
このようなことを避けるためにも、経営権を取得する取引においては、有利子負債も含めた概念である“企業価値”を算定対象とするマルチプル法が合理的です。

他方、株式上場(IPO)の場合、公募・売出株の主な担い手(買手)は、不特定多数の投資家です。こうした投資家は、経営権を取得せず、あくまで株主有限責任の原則(要は、株主は、出資額以上の負担はしませんよ、ということ)のもとで株価の値上がりや配当等を期待しています。こうした株主は有利子負債の返済義務は負わないので、そもそも有利子負債を含めた概念である“企業価値”で考える必要がありません。
同業他社と比べて対象会社の株価は割安か、市場価格に比べ相対的に株主還元をする余力があるか等を測定できるマルチプル法の方が合理的です。

値付け方法の違いが生み出す株式価値の相違

株式会社の株主である売手にとって、このことは、負債資本構成や段階損益の面から非常に重要な示唆をもたらします
もし、M&Aによる株式売却と株式上場(IPO)による株式売却のどちらも選択可能な場合、高い確率で以下のことが言えるでしょう。

①上場類似企業と比べ、負債資本比率(純有利子負債/純資産)が大きい場合

⇒株式上場(IPO)での売却の方が、M&Aでの売却よりも高値が付く

上場類似企業と比べ、EBITDAマージンは大きいが、当期純利益率は小さい場合

⇒M&Aでの売却の方が、株式上場(IPO)での売却よりも高値が付く

こうした評価技法の違いを抑えることで、株主である売手の利益はより大きくできる可能性があります(創業者利潤の最大化)。また、こうした知識に、会計、税務、投資財務ストラクチャーの知識を掛け合わせることで、更にその効果を増幅させることができます。

弊社グループでは、バリュエーションに会計・税務の知識を組み合わせ、株式上場(IPO)における創業者利潤の最大化をご支援します。
また、株式会社の株主(オーナー)にとって、最適な株式売却手段(ストラクチャー)の選択をご支援します。お気軽にご相談ください。